お知らせ
スペシャルアドバイザーの登山家 田部井淳子氏からいただいたの応援メッセージをご紹介
こんにちは、田部井でございます。私は福島県三春町で生まれました。三春というのはウメとモモとサクラが一度に咲くから三つの春と書いて三春町といいます。今は滝桜で有名になりましたが、その三春小学校の4年生の時の担任の先生がすごく山好きだったのです。学校の行事とは全く別に、「自分はこの夏休みに山に行くけれど、一緒に行きたい人は連れていくぞ」と言ってくださいました。私の小学校時代は昭和20年代ですから、まだまだ食べることに追われていてとても家族旅行とかハイキングだとかができる時代ではなかったのですけれど、親が先生と一緒ならという事で許してくれて、はじめて登山をしたのが10歳の時でした。
連れていってくれたのは、栃木県の那須山系にある茶臼岳と朝日岳という1900mの山でした。そこで私はものすごくびっくりしました。火山の山ですから草も木もありません。私は三春で育ったので、山というのは、段々畑がある、花が咲く、木の ある緑のところが山だと思っていました。ところが那須山では火山で木も草もない、ゴロゴロした岩と砂とあの変なにおいがする。これがものすごい驚きでした。こんな所は来たことがない、見たこともないと思ったのです。
小さいときに体が弱かったので運動が大嫌いで、走ったり跳び箱もできない、逆上がりもできなくて、白線からよーいドンで走り出す運動会は大嫌いでした。しかし、山では先生が「ゆっくりでいいよ」と言ってくれた。その言葉がすごく救いになりました。とにかく、ゆっくりでいいよ、自分のペースで歩けばいいよ、まわりを楽しんでと言ってくれて、それが本当にうれしかったのです。
さらにびっくりしたのは、木がないという事、草がないという事、川なのにお湯が流れている。その川をせき止めたところに私たちが泊まった宿があり、川は露天風呂になっていました。「うわぁお湯の川だ」と思いました。さらに夏というのは暑いものだと思っていたら、山の上では寒かった。
学校の黒板とか教科書で習ったものではない、本当に自分の足で歩いて、自分の目で見て、自分の肌で感じた体験というのが強烈なもので、「自分の知らないところ、自分の行ったことのないところがまだまだいっぱいあるのだろうなぁ」という好奇心が芽生えたのは、その山登りだったのです。
山とういのは、よーいドンで登るのではなくて、どんなにゆっくりでもいいのだということ、それでみんなと同じように達成感が味わえる。でも山ではどんなに辛くても選手交代は無いという事、自分がいかない限り頂上には立てないという事、そのことを私は小さいなりに肌で感じることができました。
あの「見たことのないモノを見たい」という好奇心は、今76歳になっても続いています。今はどんな小さな国のどんな低い山でもその国の最高峰に登ってみたいと 思って、今年76か国なのですが、これも続けていきたいと思っています。その原動力は小学校4年の時の先生のおかげです。
そういった指導者、リーダーがもっともっとたくさん育っていただいてJOLAの受賞をしていただけたら私は本当にうれしいと思います。
かつて私は、ROLEXという会社のROLEXAwardsの選考委員になった事があります。本当に大変でした。ですから選考委員の皆さん本当に大変だと思います。私寝れなかったです。英語を読むだけで夜も眠れない、全世界から集まる。それが素晴らしいモノばかり。どうやって選ぶかという基準は本当に大変、選考の方は本当に大変です。視察に行くぞと言って現地に行くと受ける方は構えてしまうので「そーっと」行ってください。そして、静かに見守ってください。周りも全部取材して、いつ行くかというのは連絡もしないのです。それを何度も繰り返して。これはちゃんとやってるぞと、そういう基準で決めた記憶があります。選考委員の方は大変ですが、ぜひ頑張っていただきたい。
私が味わったような幼い時に「山は楽しい、見たことがないモノが見られる、好奇心がわく」という経験をさせられる指導者がいっぱい輩出されることを祈念したいと思います。ありがとうございました。