塚原 俊也
「ちょっと考えたらまず離陸(行動)する。着地点は飛びながら(やりながら)考える!」
というのが私がいる「くりこま高原自然学校」代表の佐々木豊志の言葉。少し頭でっかちに物事を捉えがちな自分には新鮮な言葉でした。これからの社会は自然と共生し持続可能な平和で豊かな暮らしを創造することが重要となってきます。そのための人づくりを「くりこま高原自然学校」で体験学習法をベースとした冒険・環境教育の企画、運営、指導を通して17年間行ってきました。自然学校のある宮城県栗原市栗駒耕英地区は日本らしいブナ林の広がる栗駒山の中腹に位置していて、東北一の大河である北上川流域の豊かなフィールドがあり、県内随一の豪雪地帯そして戦後開拓地でもあります。厳しくもやさしい自然と向き合い、折り合いをつけながら自然の中で生活することで学びや成長のプロセスが生まれています。
東北の自然環境で培われた暮らしの知恵や歴史文化(馬、雪、渓流、古道、蝦夷、お駒信仰、祭り、林業、農業、循環型の暮らし、自然災害への対処など)を野外教育と融合してつくり出したプログラムを企画・指導しています。具体的には教育キャンプや森のようちえん、林業エコツーリズム、自然体験指導者養成、東北での自然体験ネットワークづくり、災害ボランティアコーディネーター育成などを各団体の理事や委員を兼務しながら行っています。
私が冒険・環境教育に進んだのは、今思えば色々な経験を自由にさせてくれた両親の影響が大きいと思います。冒険教育の父といわれるクルトハーンも「子どもに大人の考えを強いるのは間違いであるが経験の場を強いることは大人の義務である」という言葉を残しています。私自身3人の子どもの父親であり、日々感じるのは子どもたちすべてに野外教育での冒険体験や火や刃物を使った仲間との共同作業が必要であること。またそこから得られる知恵や体力、自然への畏敬の念などを含んだ「生きる力」、すなわち「冒険智力」が大切だと考えています。人工知能を代表とする現代の便利な技術や道具も併せて賢く使いこなしながら生きる力。これを私なりに「Adventure intelligence(冒険智力)」と略して野外教育的なAIとはこれだ!と伝えています。
また子どもたちや参加するボランティア、保護者の方々にわかりやすく伝えるためにいくつかの言葉のレトリックを使っています。
- ①子どもが育つ「刃火歩平穂育(はひふへほいく)」
刃・火を賢く使い、たくさん歩き、平和な社会を実現する、そのために楽しくおいしく食べて丈夫な体をつくる。
- ②指導者(支援者)の関わり方の「かきくけこミットメント」
関心をもって口を出さず見守る、共感して気持ちに寄り添う、クリエイティブに関わる
、経験の場を用意する、肯定的に関わる。
- ③プログラム企画のための「サシスセソリューション」
サステナブルでシンプルなプログラムをゆとりのあるスペースでセーフティにソーシャル=社会課題の解決につなげているか。
そして以上の①~③を実現していく上で健康的に暮らすための心構えとして、
- ④心身ともに健康で豊かに暮らす「ぱぴぷぺぽじてぃぶライフ」
パワフル、ピースフル、プレイフルにペイフォワード=恩送りしながらポジティブライフを生きているか。
これらの標語を駆使して子どもの責任を奪わない、行為は裁いても気持ちは裁かない姿勢に徹しています。起こった事柄よりも事情を聴き、内容よりも気持ちに寄り添う「気持ちを聴いてくれる大人」と出会えた安心感を与え、お互いをディスカウントさせず相互に承認・尊重し合える仲間をつくることが必要だと考えています。
私たち人間は自然の森の中で過ごしているとき、雨の中でも雪の中でもつらいと思わず夢中で何かに取り組める瞬間があります。雨や雪は人の気持ちに関係なく降ります。そんな状況でわくわくどきどきチャレンジできるかは自分自身の気持ち次第であり、決して天気や周囲のせいではないのです。また、登山の楽しさや苦しさも常に自分自身の気持ちの現れでもあると思います。山はいつも変わらずにそこにあって私たち登山者の心の今を映してくれています。そんなすばらしい学びや育ちを与えてくれる自然を舞台に、子どもも大人も安心感をもって自分らしく生きていける力を養い、仲間とともに持続可能な未来を築いていける人づくりのための体験の場づくりを今後も続けていきたいと思っています。
現在、JOLAの仲間である2019年受賞者の片山誠さんとともに子どもたちの体験の機会均等をテーマに、体験活動を無償で提供する「ジャパンキッズ」の活動を開始しています。https://japan-kids.jp/
栗駒山麓ジオパーク推進協議会とはエコツーリズム、サステナブルツーリズム、アドベンチャートラベルをベースとしたロングトレイルをつくる活動を行っています。https://www.kuriharacity.jp/geopark/
これからもJOLAで出会ったみなさんとは先人たちの知恵を生かし、自然の摂理に従った「共同循環型のオルタナティブな社会」をつくりあげていきたいと思っています。
取材・文/大久保 徹
-profile-
塚原 俊也 Toshiya Tsukahara
くりこま高原自然学校 校長
OWLS (Outdoor Works & Lifestyle)代表
2004年~くりこま高原自然学校に参画。野外教育やエコツーリズム事業、循環型の暮らしを実践中。2008年岩手・宮城内陸地震で被災。改めて野外教育の役割や必要性の認識を深める。その後各地の災害支援に参加。2017年~林業など野外の仕事や循環型の暮らしと教育を結び付けるOWLS開業。未来のために野外教育や災害教育の普及、持続可能な地域づくりに邁進中。