REPORT
「中」の立場×「外」の立場。自然との共生を実現し、それを持続可能なものにするために。|report:第5回JOLAファイナリスト・クロストーク
2022年3月29日(火)の夕刻、オンラインイベント「第5回JOLAファイナリスト・クロストーク」を開催しました。今回も、アウトドアに関係するみなさま、20名程の方々にご参加いただきました。
JOLAファイナリスト・クロストークは、これまでのJOLAファイナリストの方々の魅力をもっと掘り下げて、全国のアウトドア関係者や教育関係者の方々などに知っていただこうという思いで始めた企画です。2021年8月に第1回を始めて、今回で5回目を迎えました。
まず、JOLA2017で優秀賞を受賞された田中謙次さん(一般社団法人環境文化研究所代表理事、福井県)に、「自然体験とおもろいまちづくり」と題して、お話いただきました。
スポーツと禅を融合したまちづくり・人が元気、経済が元気、自然が元気|田中謙次
田中さんは、川に学ぶ体験活動協議会(RAC)に所属され、子ども達を川に連れていき、キャニオニング、カヌー、ボード、SUP、自然を学ぶ体験などの活動を実践されています。そのフィールドは、福井県越前市にある日野川で、街中の自然環境を舞台にしているそうです。また、大人にも自然を楽しんでほしいという思いから「そうだ!川に行こう!」、川をバーにみたてたイベント「おしゃれなリ・BAR」などのプロジェクトをプロデュースされ、「自然体験は大人になってからでも遅くはない!それを我が子に伝えられるから」という思いで、活動されているそうです。
「おもろいまちづくり」の本題で、地域の活性化のキーワードとして、「人が元気、経済が元気、自然が元気」を挙げられ、その具体的な事例として、カヌースクール設立、フリースタイルカヤック世界大会誘致、禅から学ぶ子どもの人格形成について、お話をいただきました。
禅宗(曹洞宗)の総本山がある福井県永平寺町で、オリンピックのカヌー競技のメダリストを育てるまちづくりを行っていて、河川の中で、フリースタイルカヤックの競技が実施できる場所や、初心者がカヌーを楽しんだり、カヌースクールを実施したり、観光事業を行ったりできるフィールドを、地元企業の支援を得ながら整備し、数年後にはカヌーの世界大会を実施するという目標を持っているという、スポーツと禅を融合したまちづくりの事例を紹介していただきました。
また、福井県のアウトドアの事業者の集まりとして、近頃、「福井県アウトドア協会」を設立したとのことで、田中さんもそのメンバーのおひとりとして、比較的やさしい自然が多い福井県のアウトドアを通して、健康促進やウェルビーイングの提供を目指したいという思いを語っていただきました。
次に、JOLA2018で優秀賞を受賞された三森典彰さん(株式会社BiotopGuild代表取締役、Forestthree代表、東京都)に、「人と自然のつながり、人と人とのつながりを深め、一緒に活動していく仲間たちをつくりたい。」という思いをたくさん語っていただきました。
都市部にいても、どこでも誰でも簡単な自然の体験ができる|三森典彰
三森さんは、学校、企業、各種団体、各地域の自然体験・環境活動プログラムのコンサルティング、生物調査・環境調査のコンサルティングなど、様々な活動のプロジェクトを仕掛けたり、支援したりする仕事を精力的にされているそうです。
主な活動として、学校ビオトープについて、お話いただきました。学校教育における環境学習プログラムとして、「生きものたちが安心してくらすことができるすみか」という意味があるビオトープを通して、生きもの中心とした環境教育と自然環境の保全・再生などをテーマに、子どもたちに、人々が自然と共生していくために必要不可欠なものを伝えながら、人の暮らしのそばにビオトープが当たり前に存在する社会を実現していきたい、という熱い思いをお話されていました。
その学校ビオトープの魅力として、子どもたちが主体的に、いろいろな教科を横断して総合的に学習することができ、現在の学校教育の学習方法である「主体的・対話的で深い学び」を実践できるということ。あわせて、子どもたちがつくりあげたビオトープを、次の子どもたちに引き継いでいき、学校を拠点とした地域の環境を保全する仕組みづくりにもなるとのことでした。
三森さんは、様々な活動プログラムの企画を展開されているそうで、ネイチャーフォトウォーク、アロマプログラム、草木の実プログラム、生きものウォーク、昆虫標本作成などの事例をご紹介いただきました。
他にも、ネイチャーフォトグラファーとしての一面もあったり、農業などの一次産業を通したまちづくりの企画、企業・地域の人材育成プログラムの提供、動物園の展示・イベント企画など、様々な魅力ある事業を展開されていて、たくさんのお話をうかがうことができました。三森さんの取り組みは、都市部にいても、どこでも誰でも簡単な自然の体験ができるという言葉に集約されているそうです。
さらに、後半は、JOLA創設当初から多大なるご支援をいただいている、アメアスポーツジャパン株式会社・アークテリクスブランドヘッドの高木賢さんに加わっていただき、ファイナリストおふたりとのクロストークを展開していきました。
アウトドア・アクティビティだけに目を向けるのではなく、地域・社会が、自然との共生を実現し、それを持続可能なものにするために、陰ながらサポートするのもアウトドアブランドの存在価値|高木賢
田中さんと三森さんの共通点として、行政機関と連携した活動をしているということで、その行政との関係づくりについての話題となりました。たとえ行政職員の人事異動で担当者が変わっても、事業が継続されるように、熱量を上げて事業を魅力的に見せ続けるという努力をしているというお話や、行政の縦割りの部分の関係づくりを民間の立場として担っていくということ、民間の事業に行政職員が関わることによって、地域にもたらす影響はとても大きいというお話が出ました。
また、田中さんと三森さんは、地域を盛り上げていく仕掛け人という共通項がありながら、田中さんはご自身の地元の「中」の立場として、三森さんはご自身とは違う地域の「外」の立場(よそもの)として、それぞれ地域活性化に貢献しているということがわかり、それぞれの立場で、まさにJOLA理念を体現されていると思いました。
高木さんからは、アークテリクスの本拠地であるカナダのバンクーバーについてご紹介いただき、一般人のライフスタイルの中にアウトドアがある。メーカーとして、アウトドア・アクティビティだけに目を向けるのではなく、地域・社会が、自然との共生を実現し、それを持続可能なものにするために、陰ながらサポートするのもアウトドアブランドの存在価値であるので、JOLAのみなさんを応援していきたいと、とても熱いエールをいただきました。
登壇いただいたお三方、参加くださった皆さん、どうもありがとうございました。
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おまけ
当日、時間の都合で対応できなかったファイナリストお2人への質問とそれらへの回答です!
- 〈田中さん〉
質問|「しかのば」というのは地名ですか?それとも新たに名付けたのですか?
田中さん|「パドリングビレッジ」構想を軸にまちづくりを行っています。スポットが2つあって、1つは「シカノバ」です。フリースタイルカヤックのコースとして河川改修を行った場所で、市荒川という町内名で荒れる波が立つことから、「ナミノバ」と九頭竜川かわとまち協議会が命名しました。GoogleMapにも載っています。2つ目は、「シカノバ」です。鳴鹿(なるか)という地名から、「シカノバ」と命名しました。こちらは、観光や初心者の方でも楽しめる場所です。
質問|子供の自然体験は親の意識にかなり影響されます。親をその気にさせるために、工夫や施策の例がありますでしょうか。
田中さん|こちら側が、原体験を植え付けようと思うとあまり参加が伸びません。カフェスタイルのようなおしゃれ感を演出したり、撮影は、SNSでシェアされたり、体験者がアップしたくなるような、良い写真が撮れるように特に気を付けています。大人の方の体験中はあまり「これが大事だよねー」のような、上から押しつける感じを出さずに、その世代の感覚に出来るだけ私たちが近づいて目線を合わせることくらいでしょうか。あまり良い回答になっていませんね。インスタ映えなどは結構気にしています。
- 〈三森さん〉
質問|アグリトープという言葉は既存ですか?三森さんオリジナルですか?とても面白いです。
三森さん|アグリトーププロジェクトは僕の造語です。少なくとも他で見たこと、聞いたことがありません。トープの語源が“トポス”という場所、空間を表す言葉であることから、アグリ(農)にまつわる場所という意味と、ビオトープからの繋がりで「農(人の暮らし)と生きものの交わる場所」におけるプロジェクトという意味を持たせています。
報告:JOLAファイナリスト・クロストーク 企画グループ
■これまでのJOLAファイナリスト・クロストーク レポート■
第1回report「みなさんで夢を語り合いましょう!」 ゲスト:徳田真彦さん(大阪体育大学講師)、細川和朗さん(NPO法人自然体験共学センター理事長)、山根史義さん(日本ゴア合同会社)
第2回report「第一次産業から、教育、人づくり、さらに社会づくりに。」 ゲスト:永菅裕一さん(NPO 法人棚田LOVER’s理事長)、中田無双さん(北都留森林組合参事、NPO法人多摩源流こすげ副代表理事)、森光さん(株式会社ゴールドウイン)
第3回report「現場での体験から学ぶ」 ゲスト:宮村連理さん(NPO法人緑のダム北相模/東京学芸大学附属小金井中学校教諭)、バハラム・イナンルさん(NPO法人PEACE&NATURE/環境活動家)、鈴木啓紀さん(パタゴニア日本支社)
番外編report「子どもたちの川での体験が、将来の川の保全へのきっかけになる。」 ゲスト:平工顕太郎さん(川漁師/結の舟代表)、渡部麻里さん(株式会社ランドウェルCHUMS広告宣伝部部長)
第4回report「北海道のアウトドアの取組みが日本のアウトドアを変える!」 ゲスト:吉元美穂さん(NPO法人登別自然活動支援組織モモンガくらぶ事務局長、北海道アウトドアネットワーク推進委員会委員長)、新野和也さん(NPO法人どんころ野外学校、北海道アウトドアフォーラム副実行委員長)、小野浩二さん(株式会社秀岳荘社長、北海道アウトドアフォーラム実行委員)