来訪者に懐深い自然の事象に出会わせる、触れさせる、体験させることが、自然学校の役割のひとつです。たとえば、毎年夏におよそ1ヶ月間、子どもたちが自然学校に住み込むロングキャンプ。コンセプトは「全開遊び・大家族」で、最後の1週間には海・山・川など、自然のあらゆる場所を利用した2泊3日の行動計画を、子どもたち自身で企画し実行するイベントもあります。大人顔負けのイベントを考え、楽しんでいる子どもの笑顔を見ると、私まで嬉しくなりますね。そのように、子どもたちが自ら興味を持って楽しめる場所を提供し、人生を送る上で糧になる体験を積ませていきたいと考えています。
今の子どもたちを見て感じるのは、ゲームやインターネットに『遊ばされている』ということです。一人で遊ぶことに慣れている一方で、友達とどのように遊ぶか、他人と関わる居場所をどのように創るかを考えることに慣れていないからかもしれません。
自然学校にはじめて来る子どもの中には、他の子に話しかけられなかったり、自ら行動できなかったりする子がいます。しかし日が経つにつれて、年齢も、考え方も、生活観も異なる子と一緒に暮らしていくためのコミュニケーションの図り方や自然での遊び方を自ら知ろうとしていくのです。そのことから、自分で考えて話しかけたり、遊べるようになり、『自分の居場所』をつくっていくようになっていきます。これが、人が生きていくために必要な洞察力を身につけることにつながるのだと思いますね。
最近では小さな頃に自然体験をしてきた子どもたちが、大学生や社会人になって遊びに来たり、ボランティアとして戻ってきたりすることがあります。成長した子どもたちと話をしていると、自然の中で磨いた洞察力を活かし、豊かな生活を送っているなと感じます。小さな頃から見てきた子どもたちが大人になるまで見届けられる、学校の先生とは違った魅力を味わえますね。
開校から20年近く経ちましたが、これまで自然学校に来た若者や子どもたちとコミュニティをつくり、着実にネットワークを広げてきました。私たちの自然学校の基本姿勢は、「人が相互に影響を与えながら自ら育つ」「地域内外のさまざまな人々が交流する、多様な仕組みを作り続ける」です。
今後も成長した子どもたちと付き合っていき、コミュニティをさらに大きくしたいと考えています。
若いスタッフを育てるには、自分で企画したことをプログラムや事業として実行する経験を積むことが大切だと考えています。「仕事を預け、自分で動かすこと」が、スタッフ育成において私が大切にしていることですね。そのようなことが実践できるのが、田舎ならではの良さです。
具体的な例でいうと、黒松内町は3100名と小さな町のため、町長をはじめとする福祉施設や商店といった各施設の決裁者に、自分達で企画したことを直接提案できます。もし大きな都市の場合は組織の規模も大きいため、決済者と会うことすら難しいはずです。私の場合、地域社会の“顔が見える”人間関係がある環境で実践の場を経験させることから、スタッフを育ててきました。
スタッフ育成という観点で特に印象的だったのは、2011年3月に起こった東日本大震災での出来事です。大震災が起こった日、私たち自然学校のスタッフはすぐに東北に向かい、支援活動にあたっていました。その際に印象深かったのは、スタッフたちが現地の団体や施設の方と強い関係性を築いてゆくのを目のあたりにしたことです。
洞察力から被災地の方々の気持ちを考えて接し、受け入れられるスタッフたちの姿を見られたのは感慨深かったです。
次の世代を担う人材を育成できていると実感した瞬間ですね。
小学校だった校舎を拠点に、黒松内の自然を幅広く体感できるプログラムが満載です。
01. 校舎の背景に並んでいるのは、北海道が誇る壮大な山々 02. 黒松内ぶなの森自然学校のエントランス 03 . 職員室だった部屋を、スタッフが使用する部屋として活用 04. 若いぶなの木が生い茂る「歌才ブナ林」 05. 四季折々の彩りを楽しみながらハイキングできる「ぶなの森」 06. 輝く星が一面に広がる黒松内の夜空