REPORT
第一次産業から、教育、人づくり、さらに社会づくりに。|report:第2回JOLAファイナリスト・クロストーク
2021年9月28日(火)18時より、オンラインイベント「第2回JOLAファイナリスト・クロストーク」を開催しました。JOLAファイナリスト・クロストークは、これまでのJOLAファイナリストの方々の魅力をもっと掘り下げて、全国のアウトドア関係者や教育関係者の方々などに知っていただこうという思いで始めた企画。今回は、8月に開催した第1回クロストークの勢いそのままに、第2弾を実施しました。
自然学校関係のみなさま、関係企業のみなさま、青少年教育関係のみなさま、JOLAファイナリストのみなさま、JOLA運営関係者など、30名程の方々にご参加いただきました。
農山村をフィールドに、自然の中で人間らしく暮らすということを
第2回クロストークのゲストは、このような業界・分野でも盛んにアウトドア活動が行われているのかと、おそらく多くの方が感じられるのではないかなと思われるファイナリストのおふたりです。
JOLA2017で優秀賞を受賞された永菅裕一さん(NPO 法人棚田LOVER’s理事長、兵庫県)とJOLA2018で優秀賞を受賞された中田無双さん(北都留森林組合参事、NPO法人多摩源流こすげ副代表理事、山梨県)のおふたりにご登壇いただきました。
今回のおふたりは、自然環境の中でも特に農山村をフィールドにしているアウトドアリーダーで、日本を支える第一次産業の担い手でありながら、そのフィールドのポテンシャルを最大限に活かした活動プログラムを開発し、アウトドアでの人づくりを実践されています。また、アウトドアでの体験の意味を伝えながら、第一次産業の伝統や文化を継承していくことに尽力されています。おふたりの取り組みは、日常の生活に直結し、自然の中で人間らしく暮らすという私たち人間にとってとても大切なことを伝えられているのではないかなと思い、今回のクロストークをとても楽しみにしていました。
最初のセッションは、ファイナリストのおふたりから、ご自身の活動や普段考えている思いなどをおうかがいしました。
棚田のすばらしさを体感し、収穫の喜び、自然への感謝、ふるさとへの愛着などを伝える|永菅裕一
初めに、永菅さんから、ご自身が15年間取り組まれている活動を紹介いただきました。永菅さんは、兵庫県中央部の山間に囲まれた市川町で、美しい棚田を未来の子どもたちにつなげたいという思いで活動されています。高校時代に環境問題に関心を持ち、大学・大学院時代は地元の大学で環境問題を学び、環境教育の研究に取り組まれたそうです。
その後、地元での「あと5年で棚田がなくなる・・・。」という言葉で人生が変わったようです。棚田の課題として、過疎化、少子高齢化、労働力不足、鳥獣被害、後継者の問題があり、このままでは、地域の伝統、文化、技術、思いが失われてしまう。そこで、美しい棚田を未来へつなぐべく「みんなで守ろういのちの棚田」を合言葉に、都市と農村とをつなぐ組織をつくり、棚田の魅力を発信したり、田植え体験、稲刈り体験などの自然体験を年間60回のプログラムを企画し、棚田のすばらしさを体感し、収穫の喜び、自然への感謝、ふるさとへの愛着などを伝えるべく、日々奔走されています。
永菅さんは、「シャイニング〜!棚田クン」(魚類学者のさかなクンみたいな?)として、朝から棚田の様子をライブ配信されているそうです。
森林業はサービス業。木材生産と環境保全の両立した調和のとれた森づくりを推進していく|中田無双
次に、中田さんからもご自身の活動について紹介していただきました。中田さんは、多摩川の源流がある山梨県小菅村にIターン移住されて、森林組合で仕事をされています。自らの仕事を、林業というより「森林業」という言葉で表現されているそうです。森林業は山村の中心的な産業で、元気な森林を未来の子どもたちへ引き継いでいくために無くてはならない大切な職業、「森と共に生きる」職業として子どもたちの憧れの職業にしたいという気持ちから、「森林環境教育活動」を行い、森林業という職業の素晴らしさや面白さを伝えているそうです。
中田さんは、普段の仕事として、真っ暗になった森を明るい森にする、つまり間伐して緑豊かな森にしていくという最前線で森と関わる仕事されています。その中で、森を中心とした持続可能な流域循環型社会の実現に向けて、山村だけではなく流域全体(市民・事業者・行政)がひとつになって考えていくことが大切だと考えているそうです。日本の森林業には様々な課題があり、それらを解決するべく木材生産と環境保全の両立した調和のとれた森づくりを推進していく、森林業はサービス業だと力強く語られました。
また、森林環境教育活動の事例として、学校林の活動、絵本読み聞かせ、積木広場の開催、森のコンサート、企業の森による森林整備活動などをご紹介いただきました。
ファイナリストおふたりのお話に続いて、もう一方、JOLAの創設当初から活動に対してご支援いただいている株式会社ゴールドウイン(ノースフェイス)の森 光さんに、ゲストとして加わっていただき、ファイナリストとのクロストークをしていただきました。
第一次産業もアウトドアブランドも、その力によって、地域の魅力やそのポテンシャルの価値を高めていく|森 光
まず、森さんからの感想として、「おふたりの活動から、熱量があって物事が動いていくということを強く感じた」とのことでした。そして、クロストークでは、収入面が主な理由で、第一次産業の後継者不足の問題が話題になり、いろいろな働き方が選べる時代になってきたことから、永菅さんは、兼業農家の仕組みをつくること、中田さんは、観光やセラピーと森林環境をつなげること、とお話があり、収益をあげる仕組みづくりに、おふたりとも奔走されているということがわかりました。
また、田舎への移住という話では、永菅さんや中田さんのような魅力的な人、そのような「都会と農山村をつなぐ人」の存在が、移住者を増やす要因になるという話で、小菅村の場合は近年の人口減少の流れが止まったそうです。特にコロナ禍ということもあって、自然の中で仕事がしたいという若者の移住が多くなっています。
さらに、話題としては、第一次産業(農業、林業、漁業)のコラボレーションの必要性や、地元のいろいろな人が関わる場をつくると、いろいろなアイディアが出てきて、地域活性につながるという話、株式会社ゴールドウインは北杜市を支援していて、アウトドアメーカーは、ものづくりと販売だけではなく、ウェアやギアを消費者に使ってもらうフィールドを盛り上げていく「地域づくり」に寄与しているという話もあり、第一次産業もアウトドアブランドも、その力によって、地域の魅力やそのポテンシャルの価値を高めていくという話になりました。
今回は、第一次産業の切り口から、教育、人づくりにつながり、それがさらに社会づくりを見越してチャレンジしているというお話をおうかがいしました。ご参加いただいたみなさま、誠にありがとうございました。また、次回、近日中に、第3回についてご案内いたします。みなさん、次回もぜひご参加ください!
ふと気がついたのですが、クロストークの途中から、みなさん、永菅さんのことを、ナチュラルな感じで、「棚田クン」って呼んでいましたね。
報告:JOLAファイナリスト・クロストーク 企画グループ