ジャパンアウトドアリーダーズアワード|Japan Outdoor leaders Award

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受賞者

三森典彰

都会で磨くセンス・オブ・ワンダー

社名のBiotop Guild(ビオトープ・ギルド)は、生きものの生息空間と、職能集団というふたつのドイツ語を組み合わせた。活動内容は、身近な場所の自然やいきものに目を向けながら豊かな心を育む教育プログラムの実施や、環境共生型農業の支援。自然を知り親しむ一歩となる場作りやイベントの主催、環境業界を志す学生の育成など多彩だ。

代表の三森典彰さんは都心の池袋生まれ。自然が希薄な大都会では濃密な生き物体験はできないと思われがちだが、そうでもなかったと自身の少年時代を振り返る。

「都会にもセミはいますし、種類は限られますがトンボやチョウもやってくる。命のやり取りや懸命に生きる姿は都会でも見ることができるんです。そのことにふと気づいた子供の頃の驚きが、今の活動の原動力です」

自然体験は、森やきれいな川がある地域の特権ではない。レイチェル・カーソン女史が言ったセンス・オブ・ワンダー(不思議さを感じ取る感性)は、じつはどこででも実感できる。ただし、上手に案内してくれる人と、それなりの場が必要だ。

 

生きものを呼ぶことが最終目的ではない

「校庭に池を掘ったり田んぼを作れば、トンボが卵を産みにやってきます。もし次の年、自宅近くで同じ種類のトンボを飛んでいるのを見かけたら、学校で生まれたやつかなって想像したり、トンボにも通学路のようなものがあるのかなって考えてみますよね。そこから子どもたちの好奇心を膨らますことができたら、都会の学校ビオトープには原生自然に勝るとも劣らない学びの価値があると思うんです」

ビオトープ造りで重視しているのは、どんな生きものがどれくらいやって来たかという数字ではなく、関わった人たちの意識変化だ。まずはその地域の自然度を示す指標動物の話をし、それ以外の生きものを見たことがあるかどうかや、呼びたい生きものに来てもらうにはどんな条件が必要かを話し合って、イメージするビオトープ像を決める。

「来るはずと思っていた種類が来ない年もあります。去年の4年生のときは来たのに、今年来なかったのはなぜか。それを考えることも学びです。一学年全員がぼくたちに感化されるということはありませんが、面白いことに、毎年必ず何人かは上級生になってもビオトープを覗きに来る子がいるんですよ。そして、先輩風を吹かせて自分たちの頃はこうだったって下級生に語る。そういう子が出てきたらしめしめ(笑)。

先生方や保護者の方も同じです。子どもたちがもっとこの先を学びたいと思ったときに、たとえば委員会を作ろうとか、企業のCSR活動とジョイントしよう、ビオトープにとどまらず、学校全体の自然度を高める取り組みにしていきましょうというようなムードが生まれてきて、はじめて学校ビオトープは地域の自然になります。僕らの仕事は、そのスイッチを入れることです」

親から、自分の子がこんなに生き物が好きだったとは知らなかったと言われることがよくある。自然にはまったく関心がない子だと思い込んでいたので、今まで外へ連れ出さなかったと告白されることも。

 

共生志向の消費行動を広めていく

近年力を入れているのが、農林水産業とのつながりだ。人は自然に生かされているとは言うものの、多くの現代人はその実感を持っていない。農薬や化学肥料を使わない米や野菜を買うことが水や生き物を守ることにつながるという意識もあるが、その取り組みを担保するために必要なコストを聞いたとたん、現実的な消費者に戻ってしまう。

「僕自身もただの消費者でした。農薬や化学肥料の問題だとか生物との共生だとか偉そうなことをいいながら、農業については何も知りませんでした。渡り鳥のガンの仲間が越冬しやすい環境を守る農家で米作りを体験したり、できた米の販売のお手伝いをさせていただくなかで、環境教育を消費社会に浸透させることの重要性に気づかされました」

自然に関心のない人も、日々口に入れるもの、子供の体を作る元となる食べ物のことは気になるはず。高いものを買うのはまだ抵抗があるが、安ければ安いで不安になる。そういった普通の生活感覚からも、共生というテーマに切りこめるのではないかと考えている。

取材・文/鹿熊 勤

-profile-

三森 典彰 Noriaki Mimori

(株)BiotopGuild代表取締役/Forestthree代表/東京環境工科専門学校非常勤講師

「僕が一番活きる活動の場ってどこなんだ?」という自身への問いに、都会っ子でありながら自然環境の保全や再生のプロを目指した自分が一番説得力を持つのは、都会の自然環境の保全・再生とそれらを活かした都会の人向けの環境教育や体験学習だ!と思い立つ。現在は(株)BiotopGuildの代表として、“ビオトープ”という概念を用いながら、主に都市部の自然環境にまつわる仕事に従事。自然に興味がない人にも日常の中で楽しみながら自然や生きものに目を向けてもらえる仕掛けづくりをモットーとしている。

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