ジャパンアウトドアリーダーズアワード|Japan Outdoor leaders Award

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受賞者

中根佳江

自然の力で、幼児期の自由な感性を伸ばす

来年2020年に設立100周年を迎えるガールスカウト日本連盟は、キャンプなどの野外活動だけでなく、奉仕活動、人権教育、国際教育など幅広いプログラムを通じ、女子の全人的教育に取り組んできた組織だ。近年は防災教育やSDGsの取り組みにも力を注いでいる。

小学1年生のときからガールスカウトで活動している中根佳江さんは、現在、同連盟の教育・指導委員会の委員長を務めると同時に、大阪府第54団(大阪市阿倍野区)の指導者として、キャンプやハイキング、ロープワークや工具の使い方などさまざまな体験を子供たちと活動している。中根さんの団は大阪市の街中にある。そのため本格的な野外活動の場合は近畿圏の自然体験施設や長野県の戸隠にあるガールスカウキャンプセンターで行なうが、自然が少ない地元でも楽しめ、自然に対する学びにつながるプログラムにも日夜知恵を絞っている。その中で、あるひとりの少女の発言から大きな手ごたえをつかんだのが『緑のカーテンプロジェクト』だ。

「キャンプ場は緑が多いけれど、自分たちの住んでいる地域の家の周りに緑が少ない。そんな一言でした。それをもとに子どもたちみんなでアイデアを練りました。昨年のことです。夏に向けて風船葛を栽培し、家々の窓辺に這わせてみました。街に緑が増えるだけでなく、カーテン効果で家の中が少し涼しくなりました。そのぶん、電気の使用量が減り環境問題に貢献できるということを体験したのです。最後は、できた種を団の人やお友達にプレゼントしました。そうして協力者を増やし、エコで楽しい街にしていこう。楽しいプロジェクトが始まったのです」

ものごとをまず感情で受け止める幼児の心に寄り添う

本業は大学の教員で、専門は幼児教育。研究の傍ら子ども園や幼稚園に赴き、音楽と身体表現を融合させたリトミック教育を行なっている。

「子どもって、理屈ではなくまず感情でものごとを受け止めるんですね。あるとき、キャンプ場でのできごとです。幼稚園の年長さんの子が“リーダー、あれ怖いねん”というんです。“何が怖いの?”と指さす方を見たら、葉っぱが風でひるがえっているだけ。その子は葉っぱの表と裏の色がくるくる変わるのが怖かったらしいんです。街中の子なので、そのときはじめてそういう自然現象に気が付いたわけです。

ただ、その子は怖いねんと言ったとき、私の手をぎゅっと握りしめました。ほんとうに怖いのだということに気づきました。それで聞いたんですよ。“葉っぱの色がいろいろになるのが怖いのかな”と。そしたら“そう”と答え、その瞬間に手の力が緩みました。それまでの私だとこう言っていたと思うんです。“なんも怖いことないよ。葉っぱの色が表と裏で違うだけ。風が吹けばあんなに色になるねん”と。でも、その子は怖いと言って手を握りしめていた。大人には怖くもなんともない現象だけれど、それが幼児期の感覚。大人の理屈ではなく、同じ目線に立つことの大切さに気が付きました」

このような幼児の反応を見るたび、指導のあり方について考えるようになった。まずは子どもたちそれぞれの感情を受け止めることが、自由な表現力や思考につながっていくという結論にたどりついた。

実体験があると、表現能力は飛躍的に伸びる

中根さんが幼児教育の中で実践してきたリトミックは、あるイメージテーマを子どもたちに示し、音楽に合わせ体を動かしてもらう創造表現だ。この中でも、体験は重要な意味を持っていると語る。

「たとえば、タンポポの綿毛が風で飛んでいくイメージと伝えたとき、絵本で見ただけと、実際にタンポポの綿毛に息を吹きかけて飛ばす体験をしたのでは、体の動きがぜんぜん違ってきます。飛ばして遊んだ子たちは、それは見事な動きをしてみせ、しかもみんな違うんです。同じことを大人にやってもらっても、すでに固定概念の塊になっていることや周囲を無意識に意識しているので、表現の自由さは子どもにまったくかないません。大阪の海遊館でジンベイザメを見た後、その泳ぎを表現してもらうこともあるんですが、図鑑を見ただけ、テレビの自然番組を見ただけでも表現しきれないスケール感で体を動かします」

絵画でも同じことが言える。たとえお日様を黒や青の色鉛筆で描いても、それはその子のそのときのイマジネーション。友だちと同じ黄色で描くような指導は、大人の顔色を見る子を育てることになりかねないと考える。同様に、周囲と異なる幼児の表現や行動を、安易に心の問題や成長の問題に結びつけるべきではないとも、中根さんは語る。

ガールスカウト活動もそうだが、こうした教育の成果は定量化できない。量ることができないぶん、むしろ成果は無限大だと思う。自分たちの考える教育は今の日本では必要であり、社会の多様性や持続可能性を考えていくうえで大切なベースになるものと信じている。

取材・文/鹿熊 勤

-profile-

中根 佳江 Nakane Yoshie

公益社団法人日本ガールスカウト日本連盟 ガールスカウトトレイナー

大阪総合保育大学 非常勤講師

7歳よりガールスカウトに入り、大阪の街中で暮らしながら、毎年野外活動を体験し、大学生から指導者になり、全国キャンプのスタッフやドイツのキャンプへ高校生を引率や、ミャンマーのガールガイド再開後のキャンプスタッフなどを経験。普段は54団の少女たちと町の中の集会や、自然の中での活動を楽しむ。仕事では子ども・保育者の野外活動と表現をキーワードに、保幼小の教員を目指す養成大学の学生や、幼児教育において子どもや先生に指導をしている。

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