ジャパンアウトドアリーダーズアワード|Japan Outdoor leaders Award

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受賞者

片山誠

災害時も平時も、臨機応変に行動できる子を

ラフティングやキャニオニングなどのガイドをしていた片山誠さんが、アウトドアの技術を減災教育に生かす道に進もうと決めたきっかけは、2011年に起こった東日本大震災だ。

「95年の阪神淡路大震災も、震源の近くではありませんでしたが経験しました。当日は大阪・吹田市の友達の家で徹夜の試験勉強をしていました。明け方、体験したことのない強い揺れに襲われました。テレビをつけたら神戸の街が大惨事になっていて。翌日にとりあえずカートにペットボトルの水をくくりつけて電車に乗りましたが、尼崎までしか行けません。尼崎もパニックに近い状態で、持ってきた水は駅の周囲で配って無力なまま終わってしまいました」

ボーイスカウトの経験があるので、非常時にはアウトドアのスキルが役立つのはわかっていた。だが、被災地の混乱ぶりは想像を超えていた。災害を想定したアウトドア・スキルにはより踏み込んだ専門性が必要で、心がまえや思考法にいたるトレーニングも重要だと感じた。卒業後に一般企業に就職、その10年後に独立して進んだのはアウトドアスポーツ・ビジネスの道だが、心の中にはずっとあの思いがあった。そして遭遇したのが東日本大震災だ。

 

親と離れ離れになった子がいた東日本大震災

「今度こそなんとかせないかんなと思って、ボランティアに通い始めました。被災地の子供たちと話をする機会もたくさんあったのですが、親と3日間も会えなかったという子がいたのです。予期できない災害や社会混乱の下では、こういうことが当たり前に起こる。親と離れ離れになっても生きていけるような力が、子供には必要だとあらためて思ったのです。アウトドア・スキルと臨機応変な応用力を身につければ、自分の判断に対して自信が持てるようになるので、不安を乗り切ることができます。そういう子なら親も無事であることを信じていられますから、双方が冷静でいられます」

こうした思いを持って13年に仲間と立ち上げたのが、72時間サバイバル教育協会だ。72時間というのは命の限界ラインを意味する。渇き。冷え。これらに耐えきれるのは3日程度まだでが、日本の場合はほぼ3日以内に救助隊がかけつけてくれる。つまり72時間、自分の力で身を守り続けることができれば助かる可能性が高い。そんな考えから命名された。

「実際の意味合いはもっと広く、ひとことで言えば“考えて行動できるようにしよう”という提案です。スキルもさることながら、育てなければならないのは強いマインドと柔軟な思考力です。たとえば焚き火体験で、火は下から付けるといいよと教えると、それしかしない子になりがちなんですね。実際は上からつけてもすぐ燃えることもあるし、状況によっては上でしか着火できないこともある。マニュアルを疑い、とにかくわからなかったら全部やってみる。すると、いろいろな正解があることがわかってきます。ですから、一方的に教えないようにしています」

状況を見て冷静かつ柔軟に判断することが習慣化されれば、平時のさまざまな課題にも同じ発想で取り組むようになる。そこにも大きな可能性があると片山さんは考えている。

 

自助も共助もできるサバイバル・キッズ

従来の子供向け防災教育は、スライド教材の上映や消火器を使った的当てゲームなど、学校行事と同じような時間配分とプログラムになりがちだった。子供自身の中に継続意識と発展の意欲が生まれてこなければ真の防災意識は根づかないと考え、片山さんは子供たちが自発的に学びを深めたくなる仕組みを模索した。それがファイヤー、ウォーター、フード、シェルター、SOS、ファーストエイド、ナイフ、チームビルドという8つのサバイバル・ジャンルに分けた講習だ。

筆記と実技の検定に合格すると、そのつどワッペンが発行される。8つすべてに合格するとサバイバルマスターとして認定され、より大きなワッペンが授与される。自助力の高さを示すこのワッペンを、子供たちと保護者には非常持出袋に貼るように勧めている。いざというときは周囲へのアピールになるので、心配をかけなくなる。自助のできる子供であると同時に、周囲に手を差し伸べる(共助へ回ることもできる)サバイバル能力の高い子供です、という情報提示にもなる。

評判が高まるにつれ、広い階層から受講要望が高まってきた。社会人向けのサバイバルコーチング講座には、野外教育の従事者や大学生だけでなく、消防士、看護士、公務員、施設職員など、いざというときは任務で被災現場にかけつける人たちも参加する。

18年夏には、初の試みとして関西国際空港内のホテルで防災講習を行なった。

「ホテルのスタッフ研修と、夏休み向けの親子防災教室を兼ねたトレーニングでした。南海トラフ地震を想定した避難訓練の一環で、宴会場にブルーシートを敷き、テーブルやダンボールを配置して避難のシミュレーションをしました。その2週間後、関西を猛烈な台風が襲いました。タンカーが流されて橋脚にぶつかり、関空が孤立した台風21号です。そのホテルでは700人もの帰宅困難者を宴会場に受け入れました。後日写真を見せていただきましたが、トレーニングのときとほぼ同じ光景でした。自分たちのやってきたことが実践で活かされたようで感無量でした」

大勢の帰宅困難者を施設内に受け入れることは、企業として懸念もある。セキュリティーの問題だ。トレーニング直後にはそうした声もあがり、ひとまず来年の実施については未定という流れになりかかっていたという。ところが実際に災害が起き、多くの帰宅困難者が発生したことで、ホテル側は社会的使命の重さを実感した。以後、そのホテルを中心に、系列を超えて帰宅困難者を受け入れる準備計画が始まったという。

アウトドアの力が社会に貢献できることは、まだまだありそうだ。

取材・文/鹿熊 勤

-profile-

片山 誠 Katayama Makoto

一般社団法人72時間サバイバル教育協会 代表理事

株式会社ココロ 代表取締役

1971年、大阪府生まれ。関西大学社会学部卒業後に一般企業で平日は営業をしながら週末はガイドをするという生活を8年続けた後、2006年にアウトドアツアーを企画運営する株式会社ココロを設立。ガイド業をしつつ野外教育にも力を入れる。東日本大震災をきっかけに仲間と立ち上げた72時間サバイバル教育協会で2016年から代表理事となり、体験学習を通じた減災教育プログラムの全国普及に向けて活動中。

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