星野 諭
「すべての答えは自然とあそびにあると思うんです」
日本人はあそぶことを社会的課題としてとらえにくいと思うんです。「知ることは感じることの、半分も重要じゃない」とは『沈黙の春』の著者レイチェル・カーソンさんの60年前の言葉です。私は新潟県の妙高高原町(里山)に生まれ3歳から自宅の薪風呂を炊き、森の中での冒険や秘密基地づくりに没頭し、魚や昆虫や小動物を捕まえて食べ、多くの生き物の生と死を感じ、たくさんのチャレンジとケガをしてその中から「自然の豊かさと畏怖の念」を学びました。また、自然だけでなく受け継がれてきた里山の衣食住、暮らしの知恵や技を体感したことも私を形づくっていると思います。
活動をはじめたきっかけは、大学で上京して自分の生まれ育った環境と東京があまりにも違うことにショックを受けたからです。子どもの遊びは室内中心で公園には「木登り禁止・穴堀り禁止・○○禁止」ばかりで外遊び環境や地域のつながりの希薄さにがく然としました。その後、プレーパークのボランティアやYMCAなどの活動を経て、2001年の学生時代に仲間15名を集め団体を結成。まずは千代田区から日常の生活の中での「外あそび場づくり」や年間を通じた自然体験を中心にした活動を開始しました。
2008年からは、日本初となる「移動式あそび場」を創り現在では年間200回以上、全国各地で毎年延べ3~4万人の子どもが参加、約500名の若者ボランティアと共に100以上の企業や団体と協働し活動してきました。5年前には藤野・相模湖界隈に移住しオルタナティブ・フリースクールを立ち上げ「里山あそび場」をつくり、都市と里山の両方を拠点に活動しています。そんな多くの活動の中で実感するのは「子どもは大人しだい」だということ。闇雲に大人がつくっただけのルールを外してあげれば子どもは感性を全開にしてとんでもなくおもしろい「もの」や「こと」を成し遂げます。あそびが「子ども時代のど真ん中」なのです。
2011年9月宮城県石巻市、まだ震災から半年でしたが少しでも被災された方々の力になれればと、津波で流された住宅街の空地で「移動式あそび場」を地元の市民団体やボランティアさんたちと実施していたときのことです。一人の女の子とお母さんが積み木で遊んでいました。でも女の子は2時間経ってもお母さんから手を離さずにいました。そっと近づいてお母さんとお話すると、「この子はこの半年、津波に流された恐怖でトイレも、お風呂も、ご飯も、寝る時も、怖くて手を放さないんです」と伝えてくれました。とてもショックでした。
どうにもできない自分が歯がゆく私もお二人と一緒にあそび続けました。何時間経ったでしょうか。なんと!女の子が意を決したように手を離して夢中であそびはじめたのです。お母さんは号泣。その後、1時間以上泣き続けていました。帰り際に「本当にありがとうございました」と涙ながらに深々と頭を下げていただいたお母さんの姿に自然と涙があふれて止まりませんでした。「移動式あそび場」でなかったら出会えなかった方々。あそびの力が一歩未来に踏み出すきっかけになった瞬間でした。私は「あそびは素材や場所、人の組み合わせで無限の掛け算になる」。そして「人を幸せにし、社会を豊かにし、世界を平和にする力」がきっとあると確信しています。
また、2010年の上野公園全体を使ってのあそび場イベントでは300人のスタッフとともに2万人を動員。でもあまりマスコミなどで取り上げられないのは子ども食堂や子どもの貧困問題と違い、子どもの社会問題にあそびがよい効果をもたらすことに気がついていただけていないからだと思います。イギリスやドイツではあたりまえにあそびの力、社会的価値が認められています。日本でもあそびの普及活動を広めていかなくてはなりません。
でも営業活動はほとんどしていません。一回限りの「感動」が何よりも強い営業マンなのです。そして一番のポイントはそのあそびの「ノウハウやスキルをその場に残す」ことです。今では噂が噂を呼んで、芋づる式に日本全国の企業さんや地域コミュニティ団体、マンションの自治会や昔ながらの商店街まで我々の活動を活用してくれる方々が増え続けています。
子どもたちにストレスがたまったコロナの間のあそびには新しい発見がありました。いろいろな素材を持ち寄って「壊していいよ!」「ビリビリに破っていいよ!」「思いっきり投げていいよ!」というあそびです。ふだんのつくるあそびとは真逆なのですが子どもたちには大好評!また、竹や切り株などの自然素材を広い芝生のフィールド上に並べたり組み上げたりの「リアルマリオ」も実施。視覚と聴覚のゲームの世界をリアルの場で創造して身体で体感しながらあそぶのがこれまたウケにウケました。お金をかけなくても工夫次第であそびは無限大に拡がることを再認識した期間でした。
あそびから自分の感性や個性を見つめる「時間・空間・仲間・隙間・手間=5間」を私は大切にして活動しています。これからは今まで20年間続けてきた活動を5~10年で若手に引き継ぎ、日本全国47都道府県にノウハウやスキルがバージョンアップされる持続可能な「100か所のあそび場」をつくりたいです。
JOLAの方々とはお互いの学びをシェアし合って、企業さんや団体さん交えてイベントや事業を共同で行いたいですね。でもその前に「大人のキャンプあそび」がしたいですね(笑)。
取材・文/大久保 徹
-profile-
星野 諭 Satoru Hoshino
移動式あそび場全国ネットワーク
つむぎやさん 代表
プレイワーカー/一級建築士/こども環境コーディネーター。1978年新潟生まれの野生児。高校から子どものボランティア活動を行い、2001年の大学時代にNPO団体設立。子どもの居場所づくりや地域イベント、環境共生デザインやキャンプ、廃材あそび場やフリースクールなどを実施中。2008年に移動式あそび場を創造し、大都市部や里山、被災地など全国で活動を展開している。