丸谷 由
「沖縄の将来を担う若い人が自然教育の現場から出てほしいと思っています」
子どもの頃から海洋学や生物学、環境教育に興味があって専攻は自然科学、大学院では地域社会における教育のあり方を研究していました。アウトドアと社会教育と地域のコミュニティ、プログラムづくりを軸として22年間、沖縄で民間の自然学校「ネコのわくわく自然教室」の代表として自然体験活動を行っています。
フィールドは沖縄本島。国立公園でもある北部地域に足を延ばすこともありますが、基本は拠点である中城村が中心。ここは那覇市などの都市部に近いものの海や緑地などの自然が豊かに残るエリアで年間3000名ほどの子どもたちが参加してくれています。自然豊かなイメージの沖縄ですが、山村部でも自然の営みを感じる生活や遊びは少なくなっています。原因としては地域内の自然が減少したのではなく、自然を楽しみ活用するノウハウを持った大人の存在が少なくなり人づての自然体験の機会が減少したことが大きいと考えています。
自然とのつき合いの中での過酷さや理不尽さ、人知の及ばない自然の力を感じる機会は減少しています。もちろん近代化した社会の中では安全や清潔度合いが高まりますが、自然環境への正しい認識の不足、すべてを人間がコントロールできるという偏った感覚へとつながっていく傾向があります。リスクとのバランスを取りながら野宿をしたり、山ごもりをしたり、鶏を絞めたり、台風の中で活動したり、子どもたちに体験負荷のかかるプログラムが必要だと考えています。
その一方で最新の科学的知見に基づいた思考や行動、正しい情報の受け取り方などが自然との関わりにおいて重要になっているとも考えています。単に自然を楽しむというプログラムではなく、学術的な裏付けのある内容を子どもたちに紐解いて教える「科学プログラム」として地学、天文学、考古学など幅広い学びを提供しています。
(地学プログラム例)https://necon.exblog.jp/i44/
(航空プログラム例)https://necon.exblog.jp/i44/
(天文プログラム例)https://necon.exblog.jp/i31/
最新のものでは沖縄に大量に漂着した軽石を教材として地学教育から自然感を育む環境教育まで、火山学の研究者とともに教育プログラムを展開しています。
(軽石プログラム例)https://necon.exblog.jp/28955353/
また、ローテクが重視されるイメージが強い自然体験活動ですが、最新のデジタル機器やネットワークシステムの導入にも力を入れています。山の中や海の上にかかわらず、子どもたちの活動現場からLINEやInstagram、YouTubeなどのSNSを使って動画中継などの情報発信を積極的に行っています。父母世代では同様の体験をした経験がほとんどない方も多く、口頭や後日の写真配布だけでは子どもたちが体験してきた事を共感することが難しくなっています。その差が大きくなるとせっかく様々な体験を通して成長してきた子どもたちの「体験そのもの」を否定したり、その価値を理解できなくなることにつながると考えています。
動画による「ほぼ生中継」を行うことで今まさに子どもたちが「キャンプをしている」「大雨の中でふるえている」「真っ暗な中で泣いている」場面をできるだけリアルタイムで追いかけてもらい共感を生むことになります。これは実際の現場にいる我々にとってもやりがいにつながります。フィールドで情報発信が簡単にできる時代だからこそこの取り組みが可能だと考えて力を入れていますし、そこまでやってこそ本当の「自然体験サービス」だと思うからです。
(公式Instagram)https://www.instagram.com/neco_waku/
(公式YouTube)https://www.youtube.com/user/XactiNeco
そんな私たちの体験プログラムで最も過酷といわれるのが「初日の出バックパッキング」です。6日間かけて沖縄本島北部の山並みを歩いて横断するキャンプ。西海岸を12月29日に出発しテント泊をしながら山中を歩き続けること3日、大晦日の夜に太平洋側へ到着。新年の朝、テントから出ると輝く初日の出が迎えてくれて、さらに3日かけて復路を歩く全行程約80キロの道のりです。テント、食料、機材、衣類、燃料、水まで荷物を全員で分担。子どもでも10キロ、20キロになる大きなザックを背負い、勾配の激しい山道を歩き続けると肩も背中も足も痛くてたまらなくなります。その日ゴールにたどり着けば自分たちでテントを張り、料理をつくり、翌日の行程を確認する作業が待っています。山中には便利な設備も補給もなく自分たちの荷物と仲間の存在だけが頼りとなります。
最初はおしゃべりをしたり、歌ったり、景色を楽しんだりしていても、しだいに休憩中でも荷物を下ろす気力もなく道端に横たわる子が出てきます。暗くなっても見えてこない目的地にヘッドライトの影で泣きながら歩く子、数歩ごと留まり肩の痛さに歯を食いしばる子、追い詰められ自分の限界に達しながらもなんとか歩みを進める子どもたちの姿には毎回感動させられます。元文化庁長官の青柳氏は古代ローマ史の研究から「子どもの教育はどう生き残れる力を育てるかが原点」と述べています。知識や技術とともにどんな状況でも「なんとかできるだろう」という肯定的な感覚が重要だと考えています。
沖縄は日本でも特別な場所なのもありますが、海や森を活用するプログラムづくりを進めて、SUP、コーステアリング、ロゲイニング、発掘体験などこの2年間で一つの村内で200日を超える体験活動アクティビティを開発して地域の観光協会からも注目されています。JOLAのみなさんとはSNSなどを駆使してオープンに地域を超えた活動をリアルタイムで発信できる媒体を一緒に運営させていただけたらと思っています。
取材・文/大久保 徹
-profile-
丸谷 由 Yu Maruya
一般社団法人ネコのわくわく自然教室 代表理事
ネコのわくわく自然教室 代表
1980年、東京都生まれ。大学より沖縄に渡り、大学では環境教育、大学院では社会教育を専攻。地域社会における教育の成り立ちを研究する。2000年に「ネコのわくわく自然教室」を任意団体として立ち上げ、その後、団体ごと国際自然大学グループに加わり、現在まで一貫して子ども達の野外教育の最前線で活動している。著書:やんばる生き物図鑑(2004)、軽石のふしぎ図鑑(2021)