山崎 清治
「子どものころはコミュニケーションが苦手でした。そんな私を心配して親に入れられた青少年活動がアウトドアの原点です」
昨今の社会問題は複雑化しています。効率や結果を重要視し、多様性が認められにくい社会体質が原因の一つではないかと感じています。そんな社会で生きるために、一人ひとりの価値観を育む「体験プログラム=あそび」の機会は大切です。
野外教育の実践だけでなく、指導者育成、講演、研修講師、ファシリテーターとしての登壇は年間200件を超えます。武庫川女子大学での非常勤講師としての活動をはじめ、県内の大学や高校で数多くの授業を担当しています。県内のNPOのネットワークや青少年団体の協議会などの活動も精力的に行い、地域の保護司としての活動も続け、多くの青少年たちの更生を図るために保護観察活動にも力を尽くしてきました。2017年には廃止された公立野外教育施設を買い取って、「神戸三田アウトドアビレッジTEMIL」として再生し、完全民間運営にチャレンジしています。
また、私の活動の場は教育現場だけでなくビジネスの場にも広がっています。ビジネスの研修の目的は「組織の成果」を上げること。それに対して教育の究極の目的は「個人の成長」。組織の成果と個人の成長の共存こそがこれからの人材育成に必要だと考えています。また、社会変化のスピードは速く、正解は変化し続けています。これからの社会では「既存の答えや正解を知っている人」は必要ありません。「自分で考えて決めることができる人」が必要となってくるのです。ビジネスの場でも私はそんな人づくりを目指しています。
私が実施している活動の中でも2007年から毎年夏休みに実施している「無人島一週間自給自足生活」はアウトドアフィールドの特性を最大限に活用したプログラムで、現在まで小学生から大学生までの参加者述べ1000人以上を動員しています。私はこの無人島生活で子どもたちにサバイバル力やアウトドア技術を身につけて欲しいわけではありません。これからの社会を生き抜く「人づくり」を目的として実施しています。何もない過酷な無人島で、仲間からの「ありがとう」のために子どもたちは自分の役割を探し、自分ができる事を自ら考え動くようになります。そして普段の生活で「あたりまえ」と感じていたことに「ありがとう」が隠されていることを実感し、自分が「生かされている」ことに気づきます。
毎回、無人島に卵を産んでくれるニワトリを連れていくのですが、そのニワトリを最後にはどうするのか? このことについて子どもたちと話し合う時間があります。時には十数時間に及ぶ話し合いが行われることもあります。「今、食べなくても生きていける」「食べて、命の大切さを感じたい」とさまざまな意見が飛び交い、話し合いが繰り広げられます。ある年、ニワトリを連れたきた私たちの責任という点で議論になりました。その時、それまでニワトリに餌をあげ続けていた子が、話し合いの中ポツリとつぶやきました。「責任を取るということは、食べてあげることじゃない。食べた僕らが元気に生き続けることだと思う」と。
これまで参加した子どもたちからは「自分がしてほしいことを他人にもしてあげられるようになった」「自分にできることを探せるようになった」「これまでは小さい失敗をずっと気にしていたけど、無人島で山ほど失敗して小さい失敗をずっと引きずらなくなった」。との声が寄せられています。これらの声に保護者の方々からは「前とは違って今の生活はあたりまえではないと思っているようで、食べ物にも感謝の気持ちを持ってきたようです。内面がすごく変化していると感じます」「少々のことは気にしない。まあいっか!大丈夫!!そっちがダメでもこっちならOK!と切り替えられるようになった」「たくましくなった印象を受けた。兄妹との関わり方や家族への声掛けをみても、思いやったり支えようしたりする姿が増えた」とうれしい言葉をいただいています。
これらの「価値観」を積み上げるための体験の場を子どもたちにつなぐことが、子どもたちの「生きる力」を育むことになると考えています。人間社会の原点であるアウトドアフィールドは本来の人のあり方を学ばせてくれ、「価値観」を育みます。今に甘んじることなく時代によって形を変えながら、そういった学びの場を今後も提供し続けていきたいと考えています。
JOLAは「組織」ではなく、そこで活動している「人」が前面に出ているのがとてもいいと思います。よりよい社会をつくるためのアドボカシーも人を通じて広がっていくと思っています。様々な場所で、野外教育施設など子どもたちが安全に体験できる場所が減っています。これからの未来を担う子どもたちの成長のために、社会全体が一体となってそういった場所は守っていかなくてはいけません。JOLAにはそういった点でも期待しています。
取材・文/大久保 徹
-profile-
山崎 清治 Seiji Yamasaki
NPO法人生涯学習サポート兵庫 理事長
無人島学校 校長
1972年大阪府生まれ。青少年団体職員を経て、2003年にNPO法人生涯学習サポート兵庫を設立。無人島学校やリアカー縦断の旅などさまざまな体験学習プログラムをプロデュース。2017年に、廃止された公設野外教育施設を購入。完全民営で「神戸三田アウトドアビレッジTEMIL」をリノベーション運営。また、講演講師・研修ファシリテーターとして年間150本以上登壇し続けている。