永井 巧
「足下にある自然や人との繋がりを楽しむことから」
赤ちゃんは母親の周りを這い、全身と五感のすべてを使い、自分の周りにあるものを体感し、やがては、自宅の周囲で虫や鳥、草花など小さな自然と出会う経験を重ねていきます。どんな子どもも成長過程で自分の行動範囲を広げ、そこにある自然と出会い、また、日常の暮らしにおいては、エネルギーも食するものも、身のまわりから得ていたはずでした。ところが近年、暮らしが便利で快適になるにつれ、人の成長過程にあった遊びや余白、また、地域の自然で「自分を育む」時間や機会が失われてしまった側面があります。 私たちは、海と山に囲まれた神奈川県逗子市の子ども達が、地域の自然でその子なりに思いきり遊び、繋がりあう場を営んでいます。冬でも陽射しで温められた砂にまみれて友達と埋め合ったり、河口のブロックの合間にいる蟹を捕まえることに夢中になる姿。年上の学年の子達が釣り上げたハゼをナイフで捌き、小さな切り身を食する姿を見つめる羨望の眼差し。風波の後に打ち上げられたワカメを拾ったり、山へ行けば季節ごとに味わえるものを覚えたりと、暮らしの周りで、楽しかったり、美味しかったり、ドキドキしたりの実体験を重ねています。子どもだけでなく大人も一緒になって、地域や自分、自然との関係性を見出し、誰もが「海や山など自然と関わり」「自由で」「仲間がいて」「楽しい」、そんな場を共有しています。 眼前に広がる相模湾、その向こうには富士山や丹沢、箱根、伊豆。そして、海に注ぐ田越川の源流になる二子山山系のある三浦半島。足下の自然で遊ぶことから、少しづつ遠くへと世界を広げていく過程で、カヌーのパドリングや登山、トレイルランニング、スキー等、多様なアウトドアスポーツも、ごく当たり前に楽しむことにも繋がっています。 活動を続ける中で、海にも山にも様々な変化と問題が根深く広がっていることに気づきました。僕らの周りの山にある人工林は、人の関わりによってまた光を取り戻し、多様な生態系を取り戻すこともわかってきました。山や森からさらに海へと還元できることはないかを探りつつ、地域の自然の中で人間が育ち、幸せな人生を送るために、どう自然との関わりを持っていけるのかを探る – そんな旅の途上にあるのが、私たちの活動だと思っています。
いつも穏やかな逗子海岸だけど、波があればサーフィンは最高
もうひとつの冬の海の楽しみは、皆での寒中水泳
放課後の夕方の海での活動が基本。仲間とともに個々が自立するために
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永井 巧 NAGAI TAKUMI
幼少期に溺水し大の水嫌いとなるも、高校時代の遠泳により海に魅了される。学生時代は、ソマリアで地域共同体の崩壊を経験し、卒業後はツアモツ諸島の黒真珠養殖場へ。帰国後は、職務、ライフワーク共に、海と人を繋ぐ場づくりを営み続けている。 2010年逗子海岸で「黒門とびうおクラブ」活動開始、2016年に「一般社団法人そっか」として法人化。未就学児から大人まで海山などでの遊び、アウトドアスポーツのコミュニティを運営。