黍原 豊
「困難を抱える子ども達へ馬の力を届ける」
東日本大震災で母を亡くし児童養護施設にもいた高学年の子。乗馬の後、時々馬の背中に顔をうずめ、満たされた表情をしていました。馬は、何も言わずにそのままを受け止めてくれます。
馬が生きていくためには、お世話も必要。エサやりやウンチ掃除なども取り組みます。「ケアされる」という受け身ではなく、自ら働きかけ「ケアをする」。その中で、他者(馬・自然)から必要とされ、居場所が形づくられ、身体の内から力が湧いてきます。
岩手県釜石市で、築100 年を越える古民家で馬3頭と一緒に暮らしながら、このような日々を重ねています。この地域では、馬で畑を耕したり、馬で山から木を運び出したり、4-50 年前まで、馬が当たり前にいました。三陸駒舎は、地域の馬文化を再生し、馬との暮らしをベースにしたホースセラピーを被災地の子ども達に届けることを目的に2015 年に設立しました。2017年には、障がいのある子ども対象の事業も開始しました。
現在では、市内外から、遠くは片道1 時間半かけて毎月延200名ほどが来ています。ひとり親・貧困世帯・児童相談所が関わる世帯など様々な背景や困難を抱える子ども達です。家で十分な愛情を受け取ることが難しい子もいます。冒頭の高学年の子が馬の背中から安らぎを感じたように、馬や自然から得られるモノは見返りを求めない贈与で、親から注がれる愛情と同じ力を持っています。子ども達が幸せに暮らせる社会づくりに向けて、馬や自然の力を活かしていきます。
-profile-
黍原 豊 KIBIHARA YUTAKA
一般社団法人三陸駒舎共同創設者・理事
1977年愛知県生まれ。岩手大学(森林生産学)在学中に、自然保護や子どもキャンプのボランティアに関わり、卒業後は、パーマカルチャーや自然エネルギー等をテーマにした「森と風のがっこう」や岩手県立児童館のプレーリーダーを経て、2013年から釜石市にて、復興まちづくりの一環で子どもの居場所づくり等に携わる。地域の馬文化再生と継続的な子ども支援ために2015年4月に三陸駒舎を設立。