ジャパンアウトドアリーダーズアワード|Japan Outdoor leaders Award

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相良育弥

茅葺き屋根技術の伝承で日本の自然を守る

茅葺き屋根とは、ススキやヨシ、稲や小麦のわらなど里地里山から得られる植物で葺かれた屋根のこと。瓦屋根と違い20~30年で手入れや葺き替えが必要になってくるが、昔の葺き替えは集落協同の作業だったので、各家が毎年少しずつ茅をストックしておけば、順番に融通することができる。労力は結(ゆい)とよばれる手間返しで等価交換されてきたため費用もそれほどかからない。葺き替えの時に出る大量の古い茅は、田畑にすき込まれて良質な堆肥になり、最後は土に還る。暮らしそのものが自然の循環システムの中にあった時代の象徴が茅葺き屋根だ。

よい茅を育て続けるために、地域によっては火入れも毎年行なわれた。枯れ野を焼くと、次第に木が生え土地が樹林化していく遷移が進まないため、茅場は草原性の環境を好む生きものたちのサンクチュアリになってきた。里地里山は人が介入を続けた結果できあがった二次自然だが、この中には濃密で多様な生物の関係性が展開されてきた。

極論すれば、茅葺き屋根は今に至る日本の自然の中心軸にもなってきた。しかし、高度経済成長期に入ると、全国各地に数多くあった茅葺民家は急速に消えていく。相良育弥さんは、その茅葺き民家の保存活動を含め、里地里山文化全体を再生する仕組み作りに挑戦している職人だ。

 

茅葺き屋根は今や世界が注目する先端のシステム

「もともとはなんでもできるお百姓さんになりたかったんです。最初はコメや野菜を作っていましたが、冬の農閑期はあまり仕事がない。アルバイト先として紹介してもらったのが地元・神戸の茅葺き職人の親方でした。この仕事がすごく面白くて、なんとしても身につけたい仕事のひとつに加わりました。どこまで奥の深い世界なのか、究めてみたいと弟子入りしたら、どんどんはまり込んでしまって今に至ります(笑)」

茅葺き屋根の家は、所有者にとっては多くの場合、心の重荷になっている。祖父世代は愛着もあるが、息子の代から見ると遅れた貧しい暮らしの象徴で、早く取り壊して現代的な住まいにしたい。日本が大量生産・大量消費社会に入った1970年代から続く感覚で、茅葺き民家は家の代が替わるたびに壊されていった。そのため、今は全国どこも数えるほどしか残っておらず、所有者の多くもコンプレックスを抱えたままだ。

「恥ずかしいという方が少なくありませんね。でも、そういう価値観を変えるのが僕の仕事だと思っています。近年は海外に出かけてワークショップをすることも多くなりました。じつはヨーロッパではすごく関心を持たれているんですよ。茅葺きはもともと世界的にあった技術で、環境配慮型の建築様式として再評価されているのです。社会実装もされていて、たとえばオランダでは毎年2000棟くらいの茅葺き民家が建っています。リバイバルというよりアップデートという意味での茅葺き屋根。“懐かしい未来”的な感覚ですね。設計デザインはいろいろで、家の躯体そのものは現代的。家の中には最新式の設備や家電も入っています。ハイブリッド住宅のような感じです。

その意味では、日本の茅葺き民家はとても貴重なんです。里地里山文化に根差す本来の姿を保っていますから。とても価値がある。でも、持ち主さんの多くは時代遅れだと思っていて、日本社会の大方もそのように見ている。それって世界的にみるともはや3周遅れくらいの感覚です。本当は最先端に立っているのに、もったいないと思いませんか。

明るい兆しもあります。茅葺きの家は時代遅れで恥ずかしいと言っていた人たちの子や孫の世代が関心を持ち始めていることです。エコな自然素材で、日本の気候風土にも合っている。そういう家屋を譲り受け、茅を葺き直して住みたいという人も出てきました」

茅葺きの価値や意味を広く伝えるため、相良さんが屋根の修復とともに並行して進めてきたのが、子供や学生を対象にしたワークショップだ。茅場で実際に刈り取り作業をしながら里地里山のエコシステムを勉強したり、茅葺き建築の見学会、屋根の葺き替え体験会なども開く。ひとくちに茅葺きといっても、その中にはよい茅に育てる方法、鎌の使い方、刈った茅の束ね方、屋根葺きに必要な縄の作り方などさまざまな技能が存在する。

「それぞれの作業に、自然との向き合い方を含めた間合いのような技能があります。そうした暮らしの知恵を、体験を通じて参加者にインストールするのが僕の啓発手法です。弟子への伝承の仕方も同じ。ただ屋根をきれいに葺ければよい職人になれるかというとそうではありません。自ら考え、視野を生態系にまで広げ、自ら気づくことが大事。ですから、一方的に教えるようなやり方はしません。弟子に対しても、学びの機会を提供する、共に考えるという意識で向き合っています」

 

課題への向き合い方は、知恵を絞ればいくらでもある

とはいえ、茅葺き文化の保全の前にはまだまだ多くの障害が立ちはだかる。材料の茅の不足。職人の不足。そして、建築基準法による制限…。だが、茅が手に入らなければみんなで昔のように刈ればいい。職人がいないなら自分が弟子を増やそう。新築での茅葺きが法律で制限されるのだったら、仮設の建築物で魅力や合理性を伝えて行けばいい。やり方はいくらでもある。伝統とも自然とも縁の薄い都心の児童福祉施設に、茅葺きの看板をかけて子供たちや保護者を驚かせ、大喜びさせたこともある。

活動を続ける中で生まれたのが、たとえば茅の集荷システムだ。屋根材として使われなくなっていたことで、ただ火入れによる維持だけになっていた草原のススキ。それを買い取るシステムを作った。お荷物と化していた草原の管理が報酬に結び付くようになった。権利者である地域の人たちにお金が落ち、相良さん自身も仕事に使う茅を安定的に確保できるようになった。

持続可能な仕組みのヒントはつねに自然の中にある。茅葺き民家の背景にある里地里山の自然と文化を多くの人に知ってもらうため、相良さんはアイデアを練り続ける。

取材・文/鹿熊 勤

-profile-

相良 育弥 Ikuya Sagara

茅葺き職人

くさかんむり代表

1980年生まれ。兵庫県神戸市北区淡河町を拠点に、空と大地、都市と農村、日本と海外、昔と今、百姓と職人のあいだを、草であそびながら、茅葺きを今にフィットさせる活動を展開中。 平成27年度神戸市文化奨励賞受賞/第10回地域再生大賞 優秀賞

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